今回は東京大学教授である梶谷真司さんの『考えるとはどういうことか 0歳から100歳までの哲学入門』という本を紹介します。
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この本は以前から紹介したいと思っていました。
というのも、多くの哲学対話で、本書で紹介されてる哲学対話のルールが参考にされているからです。
いわば多くの哲学対話実践者にとってのバイブルとも言える一冊です。
私自身は哲学対話を始めてしばらくしてから本書の存在を知ったのですが、今までやっていた哲学対話の意義を見直すだけでなく、さらに深い哲学対話作りに大いに役に立ちました。
哲学は誰でもできるもの
著者の梶谷さんは多くの哲学対話を開催されています。
梶谷さんが哲学対話を行う理由は本書の冒頭に簡潔に書かれています。
私は長い間、哲学というのが、もっとシンプルで誰にでもできるものにならないかと思っていた。べつにいわゆる哲学の思想や問題を広く人に知ってもらいたいわけではない。物事をひっくり返したり、角度を変えてみたり、あれこれ考えるのは、それじたい楽しいことだ。誰にとてもそうにちがいない!という勝手な確信があった。
その確信を実現する手段というのが哲学対話であったと言います。
「哲学」と言うと、無駄に難解で、答えのない問いに答えを出そうとしている学問というイメージをもっている方も少なくないと思います。
しかし、哲学は本来だれにでもできるものだと思います。
そういう意味で本書の副題は「0歳から100歳までの哲学入門」となっています。
哲学はもっとシンプルであるべきだと、哲学の専門家である梶谷さんが言ってくれるというのはとても勇気づけられます。
哲学とは問い、考え、語ること
著者が中高生に哲学を教えるときに大事にしているのが、哲学の思想や概念などの知識を伝えることではなく、哲学を「体験」することだと言います。
哲学的に考えるとはつまり、「問い、考え、語ること」です。
私たちは「問う」ことで初めて「考える」ことを始めます。これは哲学対話に限らず、すべての「考える」に言えることだと思います。何かぼんやり考えている時も、腰を据えてしっかり考えている時も、必ず私たちは何らかの問いに応えようとしています。
しかし、ただ頭の中でぼんやり考えているだけでは、その思考はすぐに消えてしまいます。そこで必要になるのが「語る」ことです。言語化して語ることで、考えていることが明確になります。この「問い、考え、語る」というプロセスを繰り返すと、思考は哲学的になっていきます。
この哲学的な思考を体験するのには哲学対話が打ってつけです。なぜなら、他者に対して語ることが重要になるからです。
哲学対話で他者に対して語ることで、私たちは自分が考えていることを一生懸命相手に伝えようとします。この「伝える」ということは、相手にとってわかる言葉を選ばなければなりません。そこで初めて自分が考えていたことが、相手にとってのみならず、自分にとっても明確になります。
そして、他者に「語る」ことは新しい「問い」を生み出します。自分の価値観で語った考えに対して、異なる価値観を持つ他者から「問い」が発せられるのです。こうすることで、哲学対話では半ば自動的に哲学的な思考を体験できることになります。
哲学対話を深める哲学的な問い
ここで特に大事なのが「問い」です。なぜなら「問い」がなければ「考える」ことが始まらないからです。
哲学対話がどこまで哲学的に深くなるかは、どれだけいい「問い」ができたかにかかってくると思います。
本書では哲学対話での基本的な問い方がいくつか紹介されています。
- 言葉の意味を明確にする
〇〇とは何か?
〇〇とはどういうことか? - 理由や根拠や目的を考える
なぜ〇〇なのか? - 具体的に考える
たとえば、どういうことか?
具体的にどのようなことか? - 反対の事例を考える
そうでない場合はないか? - 関係を問う
〇〇と△△はどのように関係しているのか?
〇〇であると、△△ということになるのか? - 違いを問う
〇〇と△△はどのように違うのか? - 要約する
要するにどういうことか? - 懐疑
本当にそうだろうか?
ここで取り上げたのは「基本的な問い方」ですが、本書では他にも色々な問い方が紹介されています。
いざ哲学対話で問おうと思っても初めはなかなか問いが浮かんできません。
哲学対話でのファシリテーションに慣れていない方は、この問いのフォーマットを見ながら参加者に問いを投げてもいいかもしれません。(オンライン哲学対話では特にやりやすいですね)
まとめ
本書では、豊富な哲学対話の経験を基にした知見が惜しみなく解説されています。
初めて哲学対話を主催する方にとっては参考になる情報ばかりです。
哲学対話を初めてみたい方、今行っている哲学対話をより深いものにしたい方はぜひご一読ください!
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