私はコンサルタントとして働く傍ら、日々哲学対話を実践しています。
両方を同時に経験してみて、コンサルタントとしての業務で哲学思考が役に立つ場面が意外なほど多いと日々感じています。
そんな中で出会ったのが、ビジネスの問題は哲学思考で解決できると提唱する堀越耀介さんの『哲学はこう使う』です。
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ビジネスと哲学の融合について書かれた本書を、私の哲学の実践で得た体感を交えつつ紹介していきます。
暮らしの中で哲学を実践する「哲学プラクティショナー」
著者の堀越耀介さんの肩書を見ると「哲学プラクティショナー」となっています。哲学プラクティショナーとはなんでしょうか?
哲学をより一般的・実践的にしていくムーブメントを「哲学プラクティス」といいます。哲学プラクティスには、哲学カウンセリング、哲学コンサルティング、哲学コーチング、哲学カフェ、哲学ウォーク、子供とする哲学、ソクラティク・ダイアログなどがあります。
これらの哲学プラクティスは、哲学を日常的な営みとして、教育やビジネス、医療やスポーツの場で実践するものです。その実践者のことを「哲学プラクティショナー」と呼びます。
堀越さんは学校教育やビジネスの現場で哲学対話の講師を務めているそうです。
本書は、哲学実践の最前線にいる哲学プラクティショナーによる哲学の活用法がまとめられた本ということになります。
そもそも哲学思考とは何か?
哲学を語るとき、その主張は誰でも納得できる理路を辿らなければなりません。自分の信念やイメージで語っている人は哲学者ではなく思想家と呼ばれたりします。
こういう説明をすると、「要するに論理的思考ってことね」と納得されることがあります。私自身も哲学的思考と論理的思考を明確に切り分けてはいなかったのですが、本書にはその違いが述べられています。
哲学的に考えるとき、私たちは「クリティカル(批判的)」であることを強いられるだけでなく「クリエイティブ(創造的)」であることを求められます。
批判的思考と創造的思考の両方が哲学思考には必要となります。
それに対して、単に主張や説明を批判して解体する、「壊しっぱなしにする」のが素朴な「論理的思考」です。
哲学思考にはクリエイティブな側面、「壊したものを再び自分たちの手で組み上げる」作業が加わります。
哲学をすることで得られるメリットは?
哲学的思考がどのような思考かはわかりました。では、哲学的思考をすることでどのようなメリットが得られるのでしょうか?
哲学で「自由」になれる
著者は哲学で「自由」になれると述べています。
具体的には、
- 自分の本心に気づくことができる
- 自分の行動指針や信念を発見できる
- 自分の言葉で自分の考えを表現できる
- 他者との対話が深まり、人間関係が改善される
の4つの意味で自由になります。
これは哲学対話を実践していても強く感じることです。
哲学対話で自分の考えを述べることで、自分の本心に気づき、自分の考えを言語化する訓練になります。他者の価値観に深いところで触れることで、人間関係が深まり、哲学対話で得られた結果は自分の行動指針にもなります。
「考えたい」と思える範囲を広げる
著者は、「哲学はどんな些細なことでも対象にできる」といいます。
実際、本書の中でも「コップ」を哲学的に考えるという例が挙げられています。このコップの例を挙げた理由を著者は次のように述べています。
このように問いを立てることに普段から慣れておくと、「考えたい」と思える範囲が広がるということも、お伝えしたかったのです。
哲学対話を定期的に行うようになってから、この「考える癖」も身につけることができました。ある感情、例えば「幸せ」を感じると、「どうして今幸せを感じているんだろう?」と考えるようになります。
これは他者に対しても同じです。「どうしてこの人はこんなにイライラしてるんだろう?」「この人が喜んでいるのは何故だろう?」と考えるようにもなります。このように考えることで、自分や他者との関係をより前向きに、建設的に構築することができます。
著者はこのようにも述べています。
「疑問をもつ」とは、「関心をもつ」ことと同義です。
まさにその通りだと思います。「考える癖」をつけることは、世界の様々なことに関心をもつことにつながります。
哲学とビジネス
近年、ビジネスでも「答えのない課題」に立ち向かうスキルが必要となってきました。こうなってくると哲学の出番です。
ビジネスと社会的な善を結びつける
あらゆるモノやサービスが一定の水準に達すると、コモディティ化します。
モノやサービスで差別化できないなら、「世界観」「コンセプト」「ビジョン」で差別化することになります。
この「世界観」「コンセプト」「ビジョン」は哲学の領域です。哲学者の能力は、「ビジネスで利益を出すことと、社会的な善を結びつけようとする」際にも応用できます。
私も、複数の経営者の方々と「よい経営とは何か?」「よい働き方とは何か?」などをテーマに哲学対話することがあります。
このように「よい(善い)」というキーワードをビジネスでの概念に付けることで、ビジネスと社会的な善を結びつけることができます。
これからの時代、哲学はより求められるようになると感じています。
「哲学コンサルタント」とは?
アップルやグーグルなどの大手IT企業は「企業内哲学者」を雇っています。これらの先進的な企業のようにフルタイムで哲学者を雇うのは、まだハードルが高いでしょう。
そこでまず活躍するのが「哲学コンサルタント」です。
本書では哲学コンサルティングの種類として、以下の4つをあげています。
①倫理規定やコンプライアンスの策定
②企業のミッション・理念の構築
③社員研修としての哲学対話
④哲学の専門知に関する講演や調査
この内、②と③の仕事が私が実践している本質観取で非常に有効だと感じています。
②については、全社員もしくは幹部数人で、「よい会社とは」「よい経営とは」「よい組織とは」などをテーマに本質観取を行うことで構築することができます。そこで導かれた「本質定義」を経営理念、「本質契機」を行動指針とするのもいいかもしれません。
本質観取の方法についてはこちらの記事をご参照ください。
規模の大きな会社では難しいかもしれませんが、できれば多くの社員で共に考えることを推奨します。そうすることで、ただ受け身で働くのではなく、主体的に理念を体現するために働くことができます。
まとめ
私の哲学対話の実践を交えながら、堀越耀介さんの『哲学はこう使う』を紹介しました。
実際に哲学を実践していると、腑に落ちることばかりです。哲学のメリットを実感したい方、哲学をビジネスに使いたい方は必読の一冊です。
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