哲学対話「許すとは何か?」どうすれば人は許せるのか?

対話レポート

「許すとは何か?」

人間がより良い社会をつくろうとするとき、「許す」というのは大切な要素です。
許すことができなければ、復讐の連鎖がいつまでも終わりません。

そこまで規模の大きな話ではなくても、夫婦関係、友人関係でも許すこと良好な関係を築くための契機となるはずです。

ではどのような条件が揃えば、人は人を許すことができるのか、そもそも許すとはどういう意味をもっているのか、哲学対話で考えてみました。

哲学対話の手順についてはこちらの記事をご覧ください。

社員研修、学校教育に最適!— 本質思考を鍛える哲学対話のつくり方
私は哲学対話を定期的に主催しており、その楽しさや意義を広く伝えたいと考えています。 哲学対話は「〇〇とは何か?」と...

対話の流れ

個人の価値観を毀損される

まずはいつも通り「許した」経験を事例としてあげてもらいました。

でも意外と「許す」ってあまり経験してないんですね。なかなか事例があがりませんでした。

「許す」はなかなか出てきませんでしたが、「許せない」とか「許してもらう」というのは結構経験してるようで、いくつか出てきました。ゴミを分別しない人を許せないとか、遅刻したのを許してもらうとか。

許すという行為は「マイナスをゼロに精算してあげる」というイメージがあります。

つまり、マイナスを被らなければ許すという行為は発生しません。このマイナスはちょっとしたマイナスでは足りなくて、自分にとって痛手となるある程度のマイナスである必要があるようです。

待ち合わせをしていて、相手が遅刻したとき、遅刻した方は謝って「許してもらった」という気持ちになると思います。でも、少しの遅刻は気にしないという人にとって「許した」という自覚は発生しません。要は主観的にはマイナスを被ってないんですね。
遅刻した方は相手がマイナスを被ったかもしれないと思うため、「許してもらう」という表現になるんだと思います。

とりあえず、この「マイナスを被ること」を「個人の価値観を毀損される」としておきました。

「許す」の前提条件として「個人の価値観を毀損される」ことが必要になりそうです。そしてそれをチャラにする。この「チャラにする」をもっと深く考えてみましょう。

「許す」の本質

例として夫婦関係での「許す」を考えてみます。

パートナーの浮気を許すとき、それは何を意味するのでしょうか?

浮気されることは「個人の価値観を毀損される」ことに当たります。

それを許すというのは受け入れてチャラにするということです。
では何故受け入れられるのか?

それはこれからも夫婦としての関係を続けて、共に生きていくことを願うからではないでしょうか?

今度は少しスケールを大きくして、人種差別問題を考えてみます。

差別された側が、差別した側を許すとき、それは「今まで色々あったけど、これからは同じ社会を生きる人間として、共に社会をつくっていこう」という意味ではないでしょうか。

ここで注意すべきは、許すことは必ずしもその行為を完全に無かったことにする訳ではありません。

「水に流す」という言葉がありますが、こちらは完全に無かったことにするニュアンスが含まれています。

英語で「水に流す」は“forgive and forget” と表現されるそうです。つまり許す(forgive)と忘れる(forget)は別の行為であるということです。

完全に忘れる訳ではないけど、いつまでも争っていても仕方がないから共に生きていくことを意思する。これが許すの本質ではないでしょうか?

許す対象の存在

「ゴミ捨て場で分別されていないゴミを見たとき許せなさを感じる」という事例がありましたが、これを許すことはありません。なぜなら、その対象として特定の相手がいないからです。相手を認識できなければ、共に生きていくことを意思することができません。

そのため許すためには、同一コミュニティ内にその対象が存在していることが条件となります。

「許せない」と「許さない」

これは事例を挙げるまで気づかなかったのですが、「許せない」と「許さない」にはニュアンスに違いがあります。

「許せない」は、そこまで強い否定ではありません。許したいけど信頼できないから許せないというニュアンスです。

「許さない」はより能動的な否定になります。共に生きる意思など微塵もなく、むしろ消してやりたいくらいの気持ちになります。

まとめ

まとめると、許すとは「個人の価値観を毀損されたあとに、それでも共に生きていくという意思」となりました。

より良い社会、より良い人間関係を築くために、許し合える関係性は重要です。

許しやすくなる要素として、「事情を知って共感する」ことなどのアイディアも出てきました。今回考えた結論をもとに、このような具体論を考えていくことが必要になりそうです。

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